世界平和への旅 〜そして、わが祖国編〜

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zoom RSS 『コーカン紛争2009』 6.老大(ラオダー)

<<   作成日時 : 2015/02/27 08:35   >>

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リーダーの自覚に目覚めたきいち所長は、老大(ラオダー、兄貴、ボス)としても、スタッフのプライベートに首を突っ込んでいくことになった。

コーカン特別区の南に位置するワ州という地を訪問した時のこと。ワ州のSTW事務所長(中国人)に是非会ってほしいと紹介されて、昔JICAコーカンで働いていたという21歳の女性と会うことになった。

会ってみると、アンジェリーナ・ジュリーみたいなセクシー系で、頭の回転が早い才女だった。話を聞いてみたらなんと、「(うちのスタッフに)妊娠させられたのだが、結婚に同意してくれなくて困っている」とのこと。

「ああ、なんかいやな予感がしていたんだよなー」と思いつつも、会ってしまったのが運の尽き。着任後、基本的にプライベートには干渉しないポリシーだったが、きいちも人がいいので、「友人として」このやっかい事に巻き込まれることになった。

「うちのスタッフにきちんと責任取らせるよ」と言い残してその場では別れたが、ラオカイに戻ってから情報収集をすると、そんなに簡単な話でもなかった。元々うちのスタッフには2年間付き合っていた彼女がいたのだが、アンジェリーナさんが猛烈にアプローチをかけて、二人の仲を引き裂いたそうだ。

さらに、妊娠を逆手に結婚を迫って、彼の家に乗り込んだので、彼の母親はショックで心臓発作を起こし、半身麻酔の寝たきり状態になってしまったそうだ。アンジェリーナさんの家族はイスラム教徒で堕胎をしない方針。一方、男性の家族は仏教徒でイスラム教徒との結婚には大反対らしい。

聞けば聞くほど深みにはまりそうで、「ああ、やっぱり関わらなければよかった」と、果敢に戻ってから大後悔した。男性スタッフには、「二人でよく話し合えよ。結婚しなくても養育費で問題解決する方法もあるんじゃないか」と言い残して、放っておくことに決めた。

それから2カ月後のある日曜日、ゴルフ疲れで朝惰眠を貪っていると、突然携帯の電話が鳴った。「あれ、雨降っているのに、今日もゴルフやるのかな」と寝ぼけ眼(まなこ)で電話を取ると、なんとアンジェリーナさんが家族と親戚を連れて、フォンホワン・ホテルのロビーにいるという。

実は2週間ほど前に、件(くだん)のスタッフから結婚披露宴に参加してほしいとお願いされた。「行ってもいいけど、誰と結婚したの?」と尋ねると、元カノと寄りを戻したらしい。「で、アンジェリーナさんとの問題は解決したの?」と聞くと、「全く問題ない」と言い切ったので、それ以上深く詮索はせず、披露宴に参加した。

だが、どうやら問題ありありのまま、元カノと強硬に結婚を推し進めたようだった(なんとアンジェリーナさんとも、ワ州で結婚手続きをしていたので二重結婚!うちのスタッフは何を考えていたんだか)。

「私は二日前に結婚の話を聞いて、びっくりしてラオカイに両親と一緒にやってきたの」「私が来るのを恐れて、彼はラシューの実家に逃げてしまったの」「裁判所に訴える準備もしているの」と、アンジェリーナさんの鼻息は荒かった。妊娠5カ月の彼女のお腹は以前と比べてかなり大きくなっていたので、確かに焦る気持ちはよく分かる。

アンジェリーナさんは、今回、意を決してラオカイに乗り込んで来たように感じた。2ヶ月前の、ちょっと甘ったるい「彼のことを愛している。結婚したい」という言動は影を潜めて、一人の母親として、「子どもを産む際の入院費用とその後の養育費に関して白黒はっきりつけたい」という感じが前面に出ていた。「お兄さんがすごい怒っているから、彼の身を傷つけないか心配なの」とちょっとした脅しまで口にしていた。

その翌日、スタッフがラシューから戻ってきたので、アンジェリーナさんの家族と友人6名と、フォンホワンで夕食会を持った。最初、和解ムードを引き出そうと、料理を頼んだり、飲みものを進めたが、イスラム教徒なので誰もお酒は飲まないし、食べ物に手をつけようとする人も一人もいない。

非常に重苦しい雰囲気の中、アンジェリーナさんは理詰めの議論を展開して、場を支配していった。弁護士になったら、将来はさぞかし有望だろうなとか関係ないことを考えていたら、突然聞き役に徹していたきいちに話を振ってきた。

「この件は組織とは無関係って、所長はこの間言ってましたよね」とアンジェリーナさん。「組織としてはスタッフのプライベートに干渉しないけど、スタッフが何らかの要因で働けなくなったたりしたら、組織の問題になるかもしれない」と、自分でもわけのわからない説明をするきいち。

すると言質を取ったように、「組織とは無関係だから、私があなたのスタッフを裁判所に訴えても、何も関係ないんですよね」と理詰めで責めてきた。うちのスタッフが裁判沙汰になってもいいぐらい肝が据わっているのか、事前打ち合わせをしていなかったため、彼の心が全く読めない。とりあえず、裁判よりは示談の方がいいだろうと考えた。

「ミャンマーの法律では重婚は認められているんじゃない」「この間、交通事故があって裁判所で解決したけど(これはウソ。本当は示談)、加害者からはあまり大したお金はもらえなかったよ」ときいちは裁判沙汰回避を試みた。

するとアンジェリーナさんは、「重婚は認められているけど、それは第一夫人が了承した時に限られているわ」とすかさず反論。温厚そうなお父さんも、「交通事故の場合は、加害者が故意じゃないけど、こいつの場合は故意だ!」とスタッフを指さしながら、激怒した。「もう、あんたの責任取るは聞きあきたよ。誠意を具体的に示してくれ」と、お父さんの一点突破の主張は力強かった。

うちのスタッフはか細い声で、「子どもの責任は取る」「どうしたらいいのか言ってくれ」の一点張りで、会話が堂々巡りに陥っていたので、きいちがアンジェリーナさんに「具体的にどういう風に責任を取ってほしいの?」と尋ねると、「子どもの養育費と私への慰謝料として、500万人民元(約6,000万円)くれれば、裁判所へは訴えない」と言った。ちょっとありえないぐらい法外な金額だ。

1時間ぐらい気の重い話が続いた後、「裁判所に訴える前に、もう一度だけチャンスを与える」「一晩考えて責任の具体的な取り方に関して、明日最終的な回答をくれ」とお父さんが締めた。お父さん自身は、事をそんなに大きくしたくないようなのだが、家族や親せきの手前、彼にも「面子(メンツ)」があるようだった。

6人が去った後、「とにかく明日は平謝りに謝って、誠意を見せないと裁判沙汰になるぞ」とスタッフに言うと、「今晩よく考えてみる。老大(ラオダー)には迷惑をかけて本当に申し訳ない」と言って、スタッフはトボトボと家路に着いた。

翌日は、前日の準備不足を反省して、弁護士と相談してから、右腕の老板(ラオバン)も連れて行き、話し合いに臨んだ。上限は、「出産費用に50万チャット(約50万円)、その後養育費として月10万チャット(約1万円)」に決めた。養育費は彼の月収の4分の1程度だが、家に仕送りを半分入れている彼にとっては、これが限度らしい。

スタッフが提示した「誠意」は、アンジェリーナさんから鼻で笑われた。「犬や猫じゃないんだから、私の人生を台無しにした償いを、それっぽっちの金額でできると思っているの」と手厳しかった。

きいちは密かに物分かりの良さそうなお父さんに「大人としての采配」を期待していたのだが、お父さんも「我が家の壁に泥を塗られた。そんな金額ではとても承服できない」と言い、頼みの綱が切れてしまった。

話は堂々巡りをした挙句、最終的にアンジェリーナさんが「示談を試みたけど、誠意のない回答しか返って来なかったので、後は裁判所で決着をつけましょう」と言い残して、席を立った。

個人的には「ああ、やっと終わったな」という感じだった。「セーブ・ザ・ワールド職員の人道主義の欠如を疑う」とか、「裁判所以外にも、婦人会に相談する手段もある」など、アンジェリーナさんの捨て台詞がちょっと気になったが、組織の問題になったら、それは違う次元で対応すればいい話だ。とにかく、「友人として」この件に関わることは、これで止めることにした。

ミャンマーはアメリカのような訴訟社会じゃないし、ウェットな人間関係で解決を試みようとしたが、きいちの考えが甘かったようだ。何しろ当事者である二人が対決姿勢を崩さないので、きいちやお父さんはどうすることもできなかった。

ミャンマーの若者たちは、自分の権利を最後まで主張し、自分だけの幸せを追求するような教育を受けてきたのだろうか。そんなに偉そうなことを言うのなら、自分たちの問題は自分たちだけで処理しろよ、と言いたかった。家族、親戚、友人、職場の上司だけでなく、今度は裁判所や弁護士にまで迷惑をかけるつもりらしい。「争いから決して幸せは生まれない」ということを教えてやりたかった。

…数日後、アンジェリーナさん一家は、この件を裁判沙汰にはせず、ラオカイの婦人会に訴えるという方策に出た。裁判に訴えても余りお金がもらえないことが分かったみたいで、DPDC(自民党県支部のような存在)コーカン支部長の奥さんが議長をしている婦人会に訴えた方が得策と考えたようだ。

DPDC事務所からスタッフに翌朝出頭命令が出たが、組織ではなく彼個人に対する出頭命令だったので、所長のきいちは行かずに、老板に付き添わせた。DPDC支部長もこんなプライベート案件には関わりたくないようで、ミャンマー政府の警察少佐の手に委ねられることになった。

警察少佐の取り計らいで、最終的に「2万元(約24万円)で手打ち。但し、1週間以内に納めること」という、うちのスタッフからすると何とも有難い話になった。

「もうこの件には関わらない」とは言ったものの、彼が1週間以内に2万元(月給6か月分)を集められるはずもない。支払わなければ、警察に捕まってしまう。かと言って、全てきいちのお金を貸してしまったら、彼の将来のためにもならない。色々と考えた末、「半分までは貸してもいい。ただ残り半分は、家族や親せき、同僚、友人誰でもいいから、自分で頭を下げて金を借りて来い」とアドバイスした。

結局、きいちから半分、老板から4分の1、家族から4分の1を借りて、2万元耳をそろえて警察少佐に納めた。その後、裁判所で離婚手続きを取り、手打ち式を行い、この件はようやく終わりを迎えた。

うちのスタッフは「老大、本当にありがとう!」と喜んでいたが、アンジェリーナさんの未来を考えると、きいちの気持は沈んだままだった。ミャンマーという伝統社会で、しかもイスラム教徒として、シングルマザー生活を過ごすというのは、並大抵の覚悟でできることではない。

裁判沙汰で問題になっていた時は、きいちも自分のスタッフを庇うことに必死だったが、こうして問題が解決してみると、うちのスタッフにもう少し痛い目に会わせた方がよかったかな、という気持ちもしてきた。まあ、ベストの回答は分からない。自分が信じたやり方でやっただけだ。

そのスタッフとはその後よく飲むようになり、きいちは酔っぱらった度に、「お前が俺に金を返すかはお前の勝手だ。でも、もし返さなかったら、約束を守れなかった男として、オレはお前を一生軽蔑する」と言い放った。

幸い、彼はプライドの高い男だったみたいで、毎月1,000元、約束通り10ヶ月で耳をそろえて返済した。

他に二人のスタッフにも金を貸していたが、一人は返済期間が1年以上伸びて、一人は最後まで全く返さなかったので、基本的にはスタッフと金の貸し借りはするもんじゃないなと、よくよく分かった。

ただ、こうしてスタッフのプライベートにもたまに首を突っ込んだりしていたので、みんなから「老大(ラオダー)」「老大(ラオダー)」と、事あるごとに頼られるようになり、さながら疑似家族のような付き合いになっていったのは、今から振り返れば楽しい思い出だ。

(つづく)

きいち

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